DNAレベルからのアンチエイジング・スキンケアの科学
自然な若返りは夢ではなくなった?
近年、DNAレベルでの老化のメカニズムが急速に解明されてきています。その結果、人間のDNAの中には、老化を促進する遺伝子(老化遺伝子)と老化を抑制する遺伝子(若返り遺伝子※1)があることが分かりました。
もし、老化遺伝子のスイッチをOFFにして、若返り遺伝子をONにする事が出来たなら・・・そう、老化を抑制するだけでなく若返りさえも可能となってきたのです。
老化は遅らせる事が出来るだけ?
長らく、1956年にハマーマン博士が唱えたフリーラジカル老化説が、老化現象を説明する上で有力視されてきました。これは、フリーラジカルが引き起こす酸化によるダメージが累積して老化が起こるというもので、その後も多くの研究がそれを裏付けてきました。
この考え方によると、どんなものでも酸化することで徐々に劣化する、身の回りにあるものも時間が経つにつれて劣化してみすぼらしくなるのと同じ様なもので、それを出来るだけ遅らせる事は出来ても、逆転させる事は出来ないと考えられてきたのです。
フリーラジカルとは何か?
フリーラジカルとは、不対電子を持った不安定な分子または原子の事で、他の分子や原子と化学反応を起こし酸化させる性質があります。
いわゆる活性酸素とは、密接な関係があります。活性酸素というのは、ヒドロキシアニオン、スーパーオキサイド、一重項酸素、過酸化水素の4種類の総称で、これらの内、前者の二つがフリーラジカルの定義に当てはまります。後者二つは、フリーラジカルそのものではないですが、ちょっとしたきっかけで、フリーラジカルに変わる性質があります。
化学反応が起こる瞬間には、フリーラジカルが発生するものなので、私たちの身体では、無数のフリーラジカルが発生しています。例えば、取り込んだ栄養素をエネルギーに変換するできるのは、酸素がフリーラジカル化することで可能になるのです。
フリーラジカルは何をするのか?
問題は、制御から外れたフリーラジカルが、破壊的な酸化反応を引き起こすことなのです。私たちの身体の細胞一個当たり平均、一日に約1万個のフリーラジカルに打撃を受けているといわれます。
私たちの身体の中には、フリーラジカルの害を防ぐシステムを持っています。それでも、フリーラジカルが多くなるとその害を防ぎきれなくなります。
体内でフリーラジカルが増加すると、それ自体が、細胞膜を傷つけ、必要な物質(栄養素など)の取り込みや、老廃物の排出、正しい情報の伝達などを妨げます。また、DNAまで傷つけてしまう事もあります。
ミクロレベルの自然治癒力
しかし、人間の身体には自然治癒力というものがあります。たとえ、細胞1個当たり1日1万個のフリーラジカルの打撃を受けても、酸化・変質した分子を分解し、健全な分子に置き換え、傷ついたDNAさえ修復しているのです。身の回りにある物が、時間とともに傷んでみすぼらしくなってゆくのと同じではありません。
私たちの身体に傷が出来ても、ものの見事に修復される過程を私たちは繰り返し見ています。そうであれば、目に見えない小さな傷は、もっとすばやく修復されていると考えるのが自然です。傷む速さよりも早く自然治癒力が働けば、若返るのも可能なのではないでしょうか? よく考えてみるとフリーラジカルが存在する事が即座に老化現象の説明にはなっていないのです。
DNAの秘密が明かされてきた
近年では、DNAレベルで何が起こっているのかという視点での研究が進み、老化遺伝子と若返り遺伝子というものの存在が分かってきました。
そして DNAのスイッチを入れる働きをする様々なDNA転写因子というものが注目されています。そのなかでフリーラジカルが増加すると、DNA転写因子のNF-kBやAP-1といったものが活発に働くようになることが分かっています。
NF-kBは、DNAに働きかけて、炎症性サイトカインを作らせて、炎症の引き金を引きます。そして慢性的な炎症が、細胞膜の機能を劣化させて老化を促進する事も分かってきました。
またNF-kBが働くと、細胞はアポトーシスしにくくなります。本来DNAが損傷して、突然変異を起こし、それが修復できないとき、細胞はアポトーシスといって、自ら死んでゆくのですが、アポトーシスが起こりにくくなる状態というのが、機能が異常にになったままの細胞が増え、その中からがん細胞が発生し、増殖してゆく基盤になります。
がん細胞とまでいわなくても、もっと小さな問題、例えばシミも、小さな突然変異が原因と考えられるのです。
しわができる本当の理由
また、AP-1が働くと、コラゲナーゼやエラスターゼの暴走が起こります。コラゲナーゼ、エラスターゼというのは、それぞれ、コラーゲン、エラスチンを分解する酵素です。なぜ、そんな働きをする酵素が存在するかというと、古くなり、変質して機能が低下したコラーゲンやエラスチンを分解して、新しいものと置き換えるためです。ですから、通常は、機能が低下したコラーゲンやエラスチンを選択的に分解しているのですが、AP-1が働く事で、正常なコラーゲンやエラスチンまで分解していってしまうのです。
紫外線は、フリーラジカルを発生させるひとつの大きな要因ですが、これで紫外線ががんを発生させたり、しわなど皮膚の老化を促進したりする理由が説明できます。紫外線の害というのは、結局はフリーラジカルの害なのです。さらに、フリーラジカルは、ビタミンCを破壊し、細胞膜になるビタミンAのレセプター(取り込み口)も破壊します。このため、コラーゲンの合成そのものも低下させてしまいます。 このように、フリーラジカルは、何通りもの方法で、老化や様々な疾患を促進します。
フリーラジカルを防ぐビタミンC
体内でフリーラジカルが増加する原因としては、紫外線や様々な化学物質、重金属、ストレス、細菌やウイルス、アレルギー反応などがあげられます。
特に皮膚は、生体防衛の最前線として、紫外線や、外部からの刺激などフリーラジカルの原因に常に晒されています。
そこで、様々な抗酸化栄養素、抗酸化物質をスキンケアに応用する方法が注目されるわけです。その典型が、ビタミンCを使う方法です。
従来のビタミンC誘導体の限界
ビタミンCは、栄養としてとっても、最辺境である皮膚にはあまり届きません。そこで、皮膚に直接補う方法が研究されてきました。しかし、普通のビタミンC(L-アスコルビン酸)は、皮膚のバリアを通過することは出来ません。
そこで、様々なビタミンC誘導体が研究され、イオン導入によって皮膚バリアを通過させるもの、油性のもの、水溶性だけど親油性も持ち皮膚に浸透するものが開発されてきました。
しかし、皮膚に浸透する量、皮膚に浸透して後に元のビタミンCに変換されて働く量、そして、浸透する深さなどに限界がありました。
画期的な新素材・アプレシエ
そして、ついに画期的なビタミンC誘導体が開発されました。それがアプレシエといいます。これは、水溶性と油性の両面を持ち、従来のビタミンC誘導体よりも多く、深く(真皮層まで)浸透し、しかもビタミンCに変換される比率もはるかに高いといいます。ある研究データによると、皮膚の細胞内部でのビタミンC濃度を増加させる割合は、従来型の200倍にもなったといいます。
また、ビタミンCには、コラーゲンの合成を促す働きがありますが、従来型では、しわやたるみを改善したという証拠がありませんでした。しかし、アプレシエには証拠があります。それは、真皮層まで浸透しているかどうかの違いなのでしょう。
抗酸化物質の限界を超えて
しかし、抗酸化物質には、悲しい宿命があります。それは、自らが酸化されるのとひきかえにフリーラジカルを中和するという事です。つまりどんどん消耗されてゆくということですし、また保存中にも酸化し効力が低下してしまうということです。だから、新素材のアプレシエも例外ではなく、鮮度が非常に重要になります。
もっともビタミンCが、酸化されても、ビタミンEがあると、還元されてまた働く事が出来ますし、グルタチオン、αーリポ酸、コエンザイムQ10などの抗酸化ネットワークというものが存在はします。それでも、皮膚でどれだけそれらが働いてくれるのかは、よく分かってはいません。
画期的な新素材・フラーレン
近年の化学分野のトピックの一つに、フラーレンの実用化があります。フラーレンとは、炭素原子60個がサッカーボールのような構造をした分子です。自然界にもごく稀には存在するのですが、人工的に作り精製する方法が出来たのです。といっても1g数万円もするような高価な素材ですが。
この素材のすごいところは、フリーラジカルを際限なく吸着する点です。このため、ラジカル・スポンジの異名があります。
それ自体は、皮膚からは吸収されませんが、皮膚表面付近のフリーラジカルを消去し、皮膚内部にある抗酸化物質に電子を供給し、還元する、いわば後方基地のような役割をする点です。
したがって、抗酸化物質と組み合わせて用いる事で、フリーラジカルに対する中和能を飛躍的に高める事が出来るのです。
アプレシエ+フラーレン+UVカットで老化遺伝子をOFFに
皮膚でフリーラジカルが発生する大きな原因である紫外線をUVカットでさえぎり、アプレシエとフラーレンによって組み合わせる事で、従来の化粧品成分で話しえなかったレベルで強力にフリーラジカルを抑制できる可能性がでてきました。NF-kBやAP1を眠り込ませて、老化促進遺伝子をOFFにする事が可能かもしれません。
それを裏付ける事例があります。それは、フラーレンを使い続けた方で、老班が薄くなって消滅したり、浮き上がってきて排出されてなくなったりしたケースが見られるのです。
従来的には、ビタミンCイオン導入などで一時的に薄くなっても、完全にはなくならず、紫外線などが当たるうちに元に戻ってしまうケースが殆どでした。
どうして、完全になくなってしまったりするのでしょうか? そもそもシミというのは、メラノサイトやケラチノサイトに軽い突然変異が起こった状態と考えられます。
その場合、DNAレベルでの修復か、さもなくばアポトーシスが起こることでなくなりうると思われます。(レーザーの場合には、メラノサイトがすぐには死なない程度にダメージを与え、アポトーシスを誘発しているわけですが。)
シミが浮き上がってなくなるケースでは、NFーkBが殆ど完全に眠り込むことで、軽度の突然変異の細胞にもアポトーシスが起こったということではないのでしょうか?
レーザーやフォトフェイシャルを受ける前に
今は、メディカルエステで、レーザーやフォトフェイシャルでシミや、しわを改善できる時代ではあります。しかし、料金の問題もさることながら、それらは、本質的に皮膚にダメージを与えるものですから、リスクもあります。
シミの再発や、白斑になってしまう場合もあります。また、表皮と真皮の境界付近で軽いやけどを起こし、瘢痕組織ができて皮膚がひきつれることで、しわを伸ばす方法もあります。
つまり、本質的に皮膚を若返らせているわけではないのです。特に、繰り返し受けていると、ダメージが累積して、ある時点から急に、皮膚が衰えるリスクもあります。
むろん、これらの方法が役に立つケースはあります。しかし、その前に、より自然で、リスクのない方法を試してみてはいかがでしょうか?
それだけ、素材も進化してきているのですから。