若返りは可能なのか? サーチュイン遺伝子の発見
人間はなぜ老化するのか? それを防いだり、若返ったりする方法はあるのか? ということは、はるか太古から、永遠のテーマであったといえるでしょう。中国では、歴代皇帝が不老長寿の薬を追い求め続けました。
現代の科学は、その老化のメカニズムを解き明かしつつあります。そして、近年の最もホットな話題の一つは、は、長寿遺伝子に関するものでしょう。2000年にマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ博士がサーチュイン(Sirtuin)遺伝子を最初に酵母から発見し、続いて地球上に生息するほとんどの生物が持っていることを発見しました。
サーチュイン遺伝子は、実際には、1つの遺伝子ではなく、Sir1からSir7まで発見されており、サーチュインファミリーとも呼ばれ、長寿遺伝子とも呼ばれています。これらの遺伝子からつくられるサーチュイン酵素は、次々に連鎖反応を引き起こし、最終的に100以上もの方法で、老化を抑制し、さまざまな病変を修復させることが分かっています。その中には、ミトコンドリアの修復や、免疫細胞の調整、動脈硬化の抑制なども含まれます。
そして、このサーチュイン遺伝子は、殆どの人では通常OFFの状態になっており、カロリーを70〜80%カットしつつも、必要な栄養素が満たされた食事を続けることでONになることも分かってきました。
ウィスコンシン大学では、地下で80匹ものアカゲザルを20年間も飼育し、普通の量のえさを与えたサルと、カロリー制限を行ったサルの比較実験を行いました。
その結果、普通のえさを与えたサルは、毛が抜け落ち、しわができ、動きも鈍く、明らかな老化が見られたのに対して、カロリー制限されたサルは、毛がふさふさし、しわもなく、動きの機敏で若々しいままでした。この実験結果は、サイエンス誌にも掲載され、テレビ番組などでも紹介されたので、ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。
また、京都大学の研究グループは、サーチュイン遺伝子とは別にレブ(Rheb)遺伝子を発見しています。こちらの方は、断続的な断食によってONになることが分かっています。
これらの研究に先立って、断食で若返りや長寿化が起こるという事は実験的に知られていました。様々な動物実験では、皮膚や毛並みが若返り、大幅な寿命の延長(例えばラットで1.4倍)が見られたといいます。また、九州大学の研究では、マウスに2週間ごとに4日間断食をさせたら、寿命が2〜3倍に伸びたといいます。
これらの研究は、大いなる希望をもたらすものでした。これまで1956年にハマーマン博士が唱えたフリーラジカル老化説が老化現象を説明するうえで有力視されてきました。この考え方によると、フリーラジカルが引き起こす酸化のダメージが累積した結果として老化が起こると考えられてきたので、フリーラジカルヲできるだけ減少させたり、抗酸化物質によって抑制するなどして、出来るだけ老化を遅らせることはできても、大幅にそれを遅らせたり、老化の過程を逆転させるといったことは不可能だと思われてきたからです。
人間には、老化の過程を逆転さえさせる能力が潜在的に備わっているとなると、根本的に考え方が変わってくることになります。
それは、ダメージと回復力のバランスの問題で、もしダメージを減らして、回復力を増すことができるのなら老化の過程を逆転させる事さえ可能なのです。
サルやラットの事例だけではなく、人間の事例もあります。アメリカでは、20代から30%のカロリー制限をしている人たちがいますが、その人たちの血管年齢は、実年齢よりも30歳も若かったそうです。
では、人間で例えば40代になってから、小食や断食などで実際に若返ることが可能か? といったことに皆さんは興味がありますか? その実例をご覧ください。、エイジレス革命・DNAが目覚める美容・健康法
自然なアンチエイジングの最前線
サーチュイン遺伝子の研究とは別な側面もあります。アンチエイジング医学の中でも、より自然な方法で老化をコントロールする事で、現在最も成功しているといわれる二人の研究者、フランスのクロード・ショーシャ博士とアメリカのニコラス・ペリコーン博士、この両者の理論には、驚くほどの共通性があります。
両博士は、自覚症状なく細胞膜レベルで起こる炎症と、グリケーションという現象が老化の大きな促進要因だと述べています。
炎症とフリーラジカルの関係ですが、これらは密接な関係があり、炎症が起こればフリーラジカルが多発し、フリーラジカルが増加すれば炎症が起こるというふうに理解してください。 フリーラジカルとは、不対電子を持った不安定な分子または原子の事で、他の分子や原子と化学反応を起こし酸化させる性質があります。
いわゆる活性酸素とは、密接な関係があります。活性酸素というのは、ヒドロキシアニオン、スーパーオキサイド、一重項酸素、過酸化水素の4種類の総称で、これらの内、前者の二つがフリーラジカルの定義に当てはまります。後者二つは、フリーラジカルそのものではないですが、ちょっとしたきっかけで、フリーラジカルに変わる性質があります。
化学反応が起こる瞬間には、フリーラジカルが発生するものなので、私たちの身体では、無数のフリーラジカルが発生しています。例えば、取り込んだ栄養素をエネルギーに変換するできるのは、酸素がフリーラジカル化することで可能になるのです。
ですからフリーラジカルが圧制すること自体は正常なことで避けることができませんが、問題は、制御から外れたフリーラジカルが、破壊的な酸化反応を引き起こすことなのです。
私たちの身体の細胞一個当たり平均、一日に約1万個のフリーラジカルに打撃を受けているといわれます。
後に説明しますが、私たちの身体の中には、フリーラジカルの害を防ぐシステムや、フリーラジカルによるダメージから回復するシステムも持っています。それでも、フリーラジカルが多くなるとその害を防ぎきれなくなります。
体内でフリーラジカルが増加すると、それ自体が、細胞膜を傷つけ、必要な物質(栄養素など)の取り込みや、老廃物の排出、情報伝達などを妨げます。また、DNAまで傷つけてしまう事もあります。しかも、問題はそれだけではありません。
DNAレベルで老化を考える
近年では、DNAレベルで何が起こっているのかという視点での研究が進み、DNAのスイッチを入れる働きをする様々なDNA転写因子というものが注目されています。そのなかでフリーラジカルが増加すると、DNA転写因子のNF-kBやAP-1といったものが活発に働くようになることが分かっています。
NF-kBは、DNAに働きかけて、炎症性サイトカインを作らせて、炎症の引き金を引きます。またNF-kBが働くと、細胞はアポトーシスしにくくなります。本来DNAが損傷して、それが修復できないとき、細胞はアポトーシスといって、自ら死んでゆくのですが、アポトーシスが起こりにくくなる状態というのが、機能が異常にになったままの細胞が増え、その中からがん細胞が発生し、増殖してゆく基盤になります。これが繰り返し炎症を起こした部位からがんが発生する理由にもなります。
また、炎症性サイトカインは一見免疫を活性化するように見えますが、活性酸素や抗体をばら撒くような方向で活性化しても、それは組織のダメージを拡大するだけで、がん細胞に有効なものではありません。ここではこれ以上詳しく触れませんが、がんに対しては、キラーT細胞マクロファージやナチュラルキラー細胞などががん細胞を正確に狙い撃ちし、アポトーシスを誘発する必要があります。
また、AP-1が働くと、コラゲナーゼやエラスターゼの暴走が起こります。コラゲナーゼ、エラスターゼというのは、それぞれ、コラーゲン、エラスチンを分解する酵素です。なぜ、そんな働きをする酵素が存在するかというと、古くなり、変質して機能が低下したコラーゲンやエラスチンを分解して、新しいものと置き換えるためです。ですから、通常は、機能が低下したコラーゲンやエラスチンを選択的に分解しているのですが、AP-1が働く事で、正常なコラーゲンやエラスチンまで分解していってしまうのです。
紫外線は、フリーラジカルを発生させるひとつの大きな要因ですが、これで紫外線ががんを発生させたり、しわなど皮膚の老化を促進したりする理由が説明できます。紫外線の害というのは、結局はフリーラジカルの害なので、紫外線が引き起こしうることは、他の原因でもフリーラジカルが増加すれば起こりうるのです。さらに、フリーラジカルは、ビタミンCを破壊し、細胞膜になるビタミンAのレセプター(取り込み口)も破壊します。このため、コラーゲンの合成そのものも低下させてしまいます。
このように、フリーラジカルは、何通りもの方法で、老化や様々な疾患を促進します。
つまり、かつてのハマーマン理論で、フリーラジカルによる酸化のダメージの累積が老化の原因と言われていたのは、ある程度その通りなのですが、それだけではなくて老化を促進するDNAというものも存在し、フリーラジカルがそれらをONにすることで老化が促進される側面もあったのです。
フリーラジカルの発生原因
体内でフリーラジカルが増加する原因としては、紫外線や様々な化学物質、重金属、ストレス、細菌やウイルス、アレルギー反応などがあげられます。
そこで、様々な抗酸化栄養素、抗酸化物質が注目されるわけですが、もっと基本的で単純ですが重大な問題があります。
ひとつは、どんなな内容の食事であれ、食べすぎはフリーラジカルを増加させるという事です。腹八分目の食事にすると、大幅にフリーラジカルを減少させる事ができるということがわかりました。この原理は、どんな抗酸化物質をとることよりも有効なのです。動物実験でも、カロリーは控えめで、栄養素は満ち足りている食事を与えると寿命が大幅に伸びる事が証明されています。
もうひとつは、GIの高い食事が、細胞レベルで炎症を引き起こし、フリーラジカルを増加させるという事です。GIの高い食事というのは、急速に糖分が吸収され、血糖値を引き上げる食事という意味ですが、精製炭水化物の多い食事がそれに当たり、砂糖は究極の高GI食品です。GIの高い食事というのは、後に説明しますが、グリケーションという、もうひとつの方法でも老化を促進します。GI(グリセミック・インデックス)についての詳しい説明と、食事の改善方については、「癒しの食卓」の中の「太りにくい食事とは?」を参考にしてください。また、その弊害の別な側面については、「U型糖尿病・反応性低血糖は、自然な方法で克服できる」を参考にしてください。
フリーラジカルが増加した状態というのは、予防医学的に言えば、動脈硬化が促進され、がん細胞が発生し、成長しやすい状態というこができますし、美容上は、皮膚に弾力がなくなり、たるみやしわ、シミ、くすみができやすくなる状態であるといえるのです。
→つづき
自然な方法によるアンチエイジング 1 若返りは可能なのか? サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)の発見
2 老化を促進する要因 精神的ストレス グリケーション(糖化)
3 若さの大敵 リーキーガット ルロウ形成
4 酵素断食(酵素ダイエット)は、自然なアンチエイジング法
エイジレス革命 1 2 3 4
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