W・希望の光・栄養療法
基本的な栄養療法
栄養療法(Nutrition Therapy)で、世界的に教科書として使われている文献に、メルビン・ウァーバック博士のHealing through Nutrition(邦訳名『完訳 栄養療法辞典』)がありますので、ご自分でお調べになりたい方は、こちらをお勧めします。
この文献や、そのほかの多くの文献を参考にしながら、私自身の実践経験をあわせ、多くの糖尿病患者に安全、かつ有効と思われる基本的なレシピ(医学的治療と区別するために、『プロトコル』とは呼びません)は、以下の内容です。
@ クロム(クロミウムピコリネイト・ピコリン酸クロムの形態で) 1日、200μg
A ビタミンBコンプレックス 1日に、B1、B2、ナイアシン、B6、イノシトールを各50mg 以上、B12を50μg以上
B 亜鉛(アミノ酸キレートタイプ) 1日50mg以上、上限100mg
※個人輸入などで入手できますが、自己判断で摂取する場合は、自己責任です。出来ればカウンセリングをお受けになることをお勧めします。
私の経験上、何十年も、糖尿病を患っていた方が、ある程度の食事のコントロールと運動を前提にして、@とAを2〜3ヶ月続けただけで、血糖値が完全に正常に安定したケースもあります。 ただし、インスリンを使っている場合には、特にクロムを補給すると、血糖値が下がりすぎる場合があります。自分で血糖値を測りながら、インスリンの量を調整でき、いざ下がりすぎたときの対処ができることが前提となります。その際、医師の了解を得てください。(いい顔はされない場合が多いようですが・・・)
また、血糖値が下がっても痺れなどの神経障害が残る場合、ビタミンB12がその回復を助けます。B12は、ビタミンBコンプレックスに含まれていますが、先に述べましたようにメチコバールの名で、神経組織に取り込まれやすくしたビタミンB12が医薬品になっており、保険で処方できるので、医師に痺れの症状があることをはっきり伝えて、処方してもらうとよいでしょう。ビタミンBコンプレックスと併用になっても問題はありません。
ただ、先にも述べましたように、個人の栄養状態、体質、糖尿病の原因は、千差万別です。実際にクロムや亜鉛が不足していた場合には、それらを補給すれば有効と思われます。但し、2〜3ヶ月試してみて、効果が見慣れなければ中止すべきです。また、効果があって、血糖値が正常化したら、マルチ・ビタミン・ミネラルなどに切り替えた方がよいと思います。ミネラルは、単独で長期過剰に摂取した場合には、弊害があります。
そのほかの合併症に対する栄養療法
神経障害に対する、ビタミンB12の作用について述べましたが、もうひとつ役に立つものがあります。そもそも、神経障害が起こる理由は、神経組織内にだぶついたブドウ糖が、アルドース還元酵素の働きでソルビトールに変換され、そのソルビトールが細胞内に蓄積されることで起こると述べました。現代医学では、そのアルドース還元酵素阻害薬を治療に使う場合があります。
自然な方法としては、食品に含まれるバイオフラボノイドという栄養素のグループが、ソルビトールの生成を抑制します。バイオフラボノイドの代表的なものとしては、ルチンやケルセチン、ヘスペリジンなどがあげられます。ルチンは、蕎麦に、ケルセチンは玉ねぎやニンニクに、ヘスペリジンは、柑橘類に多く含まれます。これらを濃縮したサプリメントも売られています。
実は、玉ねぎの皮の茶色は、ケルセチンの色そのもので、これを煮出すと煮汁が見事な黄金色になります。これをスープに使うとかなりの量が摂取できてしまうのです。しかもそれは、ソルビトールの精製を抑えるだけでなく、活性酸素を中和する強力な抗酸化物質で、しかもヒスタミンの働きを抑制する働きもありますから、アレルギーやその他の炎症を抑制するのにもよいのです。
男性の糖尿病患者を悩ませるED(勃起不全・勃起障害)ですが、これは、自律神経での神経障害と末梢血流障害、動脈硬化などが絡み合って起こると述べました。医学的治療では、バイアグラが使われたりしますが、こうした医薬品による治療の場合、性的興奮と勃起が一致しない傾向があるために、違和感や不便を感じる人も少なくないといいます。本当に自然で健康な状態へと回復することに越したことはないでしょう。
血糖値が下がり安定しているならば、医薬品ならばメチコバールとアルドース還元酵素阻害剤、自然な栄養素ならば、
B12やケルセチンの組み合わせで、自律神経障害が回復するにつれて解決する可能性はあります。
また、もともと亜鉛不足のために、男性機能が低下する可能性が高いので、先に述べましたように亜鉛の補給が、この問題にも役立つ可能性があります。
他、ビンゴビロバ(イチョウの葉エキス)やホーソンなど伝統的に血行障害を改善することが知られるハーブも、糖尿病に限らず、ED一般に改善事例があります。しかも、ギンゴ・ビロバには、脳への血流を改善することで、痴呆やうつを改善する働きも知られています。(ただし、高血圧で医薬品を服用されている方には、脳出血のリスクを増やすのでお勧めできません)また、ホーソンには、血小板の凝集を抑え、動脈機能を改善し、高すぎる血圧を自然に下げる働きも知られています。
バイオフラボノイドも、ギンゴ・ビロバもホーソンも、強力な抗酸化物質でもありますから、活性酸素を中和し、長期的には動脈硬化を抑制する効果もあるといわれています。
ビタミンEも、血行障害を改善し、神経の回復を促し、活性酸素を抑制し、機能回復の助けになると思われます。
抗コレステロール薬の副作用に朗報
糖尿病患者の場合、中性脂肪値や、LDLコレステロールの値が高くなる傾向があることはすでに述べました。これ自体も、インスリン抵抗性が原因で起こるので、糖尿病を改善する過程で一緒に改善する可能性はあるのですが、中性脂肪やLDLコレステロールが高い状態を放置すると、糖尿病患者の場合には、体内で活性酸素が多く発生することもあり、LDLコレステロールが酸化された結果、動脈内壁にアテロームが形成されやすく、急速に動脈硬化が進むリスクがあります
。
しかも糖尿病患者の場合、LDLコレステロールが、小型化し、血管内皮にもぐりこみやすくなり、その上、動脈硬化を防ぐ働きがあるHDLコレステロールが少なくなる傾向があるので、たとえLDLの値が特別に高くなくとも動脈硬化のリスクは増大します。
それで、スタチン系抗コレステロール薬の処方を受けているケースもあると思います。それは、今のところLDLを抑制し、動脈効果を防ぐ上でもっとも有効方法といわれています。
しかし、皮肉なことに、この薬は、コエンザイムQ10という重要な抗酸化物質の体内合成も減らしてしまうのです。しかも、糖尿病患者は、もともとコエンザイムQ10の体内合成能力が低下し、血中濃度が低くなっており、それを補給することで血糖値が下がる場合があると報告されています。
その理由は、コレステロールもコエンザイムQ10も、アセチルコリンを原料にして、同じ、メバロン酸経路という代謝系から合成される、いわば双子の兄弟だからです。スタチン系抗コレステロール薬は、アセチルコリンからコレステロールやコエンザイムQ10を合成する経路上で働くHMG−CoAレダクターゼという酵素の働きを阻害するのです。
病気をよくするための薬が一方で、悪くする要因も作っているという点が皮肉なのです。スタチン系薬は、筋肉組織にも入り込み、コエンザイムQ10の合成を阻止するので、それを必要とする筋肉組織を分解し、筋肉量の減少を引き起こす副作用も知られています。しかし、自分でできる対策があります。要するに、コエンザイムQ10をサプリメントで摂取するということです。
ここまで、単純で明白なことがなぜ現代の医学で標準処方になっていないのか不思議です。コエンザイムQ10は、、ユビキノンの名で、うっ血性心不全の薬としては認められているのにです。調べてみると、やはり、スタチン薬を処方する場合に、ユビキノンを併せて処方するということを標準処方にするべきだという議論があるようです。それが実現するまでは、自己防衛を図るのがよさそうです。
糖尿病のさらに深い背景
過度に精製された食品は、グリセミック・インデックスが高くなり、栄養素は不足するので、糖尿病の原因になるということは何度も述べました。そもそも、なぜ人は、グリセミック・インデックスの高い食品に魅せられてゆくのでしょうか。無論、まずは、世の中にそうした食品が氾濫し、習慣化するからです。そして、急激な血糖値の上昇は、インスリンの過剰分泌を刺激し、急急激な血糖の降下を招き、再びGIの高い食品が食べたくなるという中毒性の悪循環を招くということもすでに説明しました。
それにしても、清涼飲料水、チョコレート、その他の甘いお菓子類、スナック菓子、ビールや日本酒などに、異常な固執を示すケースも少なくありません。実は、そうなるには、さらに深い背景が考えられるのです。
フィンランドの研究グループの発表で、糖尿病とうつ病の間には、相関性が認められるという話は紹介しました。私の考えでは、糖尿病とうつ病の関係は、一方が他方の原因になっているというだけでなく、根本原因を一部共有しています。
それは、ストレスに関係するものです。別な記事で、「抑うつからの開放−こころの自由を取り戻すために」で、ストレスに対する人間の体の生理的反応とうつ病の発症メカニズムについて述べています。
要約すると、持続的で過剰なストレス、満足感や喜び、やりがい感を十分に伴わないストレスは、抗ストレスホルモンのコルチゾールの慢性的な過剰分泌を招き、それは、細胞のコルチゾール・レセプターのダウンレギュレーションを引き起こし、更なるコルチゾールの過剰分泌を引き起こします。そして、過剰なコルチゾールは、やがて大脳辺縁系の機能を低下させ、脳内でのセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の合成低下を招き、やがて、うつ病を発症させるというものです。
そして、うつ病が発症する前段状態から、急激に血糖値を引き上げる食品への渇望が起こる傾向があります。理由は、二つ考えられます。ひとつは、急激に血糖値が上昇するときに、一時的にドーパミンの放出を促すということ。もうひとつは、血糖値が急上昇し、インスリンが大量に分泌されると、一時的に、セロトニンの原料になるトリプトファンというアミノ酸が血液脳関門を通過して脳内に入り込みやすくなり、結果的にセロトニン合成が促進されるということです。どちらも、一時的にドーパミンや、セロトニンの不足を緩和するだけで、結局時間が経過して血糖値の急激な降下が起こったときには、一層不快な状態が起こります。そうすると、また血糖値を急激に引き上げるような食品を食べることを繰り返しやすいのです。
それで、糖分をとると苦痛が緩和する、糖分をとらないでいると苦痛が増大する、という構図が繰り返されることで、依存性が起こります。
こういう状態になった人に、チョコレートが人気があるのも理由があります。チョコレートは、カカオの苦味ゆえに、大量の砂糖を加えることができますし、カカオに含まれているテオブロミンという成分が、脳内のセロトニン・レセプターに結合して、セロトニンの働きを代行するのです。もしかしたら、ビールに含まれるホップも、ハーブ薬として、精神安定作用、鎮静作用の目的で使われてきた歴史があるので、似た働きをしているのかもしれません。それが、アルコールが一時的にセロトニンの放出を促すはたらきと相乗作用するということが、ビールの人気の隠れた理由であるかもしれません。ビールのほうも、結局はたくさんの糖質をとりこむ事になります。
だから、ファースト・フード、ジャンクフード、清涼飲料、甘いお菓子、特にチョコレート、醸造酒、特にビールと日本酒などをたくさんとることへの固執、、あるいは普通の食事であっても、白米をたくさんたべないと気が済まないといったことが起こるのは、脳内でセロトニンやドーパミンの不足が起きている兆候なのかもしれません。
糖尿病患者の中には、コルチゾールの過剰分泌と、セロトニン、ドーパミンの合成低下を伴っているので、この問題をあわせて解消しなければ、食習慣を正すこともできない場合があると思います。食習慣を正せない糖尿病患者を、「自分で治そうとする意思がない」と決め付ける前に、この可能性も考えてみるべきです。
そういうわけで、糖尿病もまた、心理、栄養、生活習慣などを包括したホリスティックな対処が必要と言うことが私の立場です。これは、現代医学が間違っているというのではなく、補完されなければならないというのです。
T・深刻です!しかし治すことは可能です!
U・糖尿病は、こうして起こり、そして進行する
V・現代医学の盲点と完治への道
W・希望の光・栄養療法
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