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U・糖尿病は、こうして起こり、そして進行する


鍵を握る「グリセミック・インデックス」

 そもそも、糖尿病が増え始めたのは、食物を精製し始めてからだといわれます。つまり、白い小麦粉、白い米、砂糖などが作られるようになったことと関係があります。
ここで、鍵を握る重要な概念を紹介します。それは、グリセミック・インデックス(Glycemic Index、以下GIと略します)という指標です。これは、その食品を食べたときに、どれくらい早く血糖値を引き上げるかを、ブドウ糖を直接摂取した場合を100として比較した数値です。具体例
 玄米の56に対して、白米84(別なデータでは、72)、ライ麦パン58に対して、食パン91、フランスパン93などの数値を見ると、精製した穀物とその製品は、非常に早く吸収され、急速に血糖値を上昇させることが分かります。
 そして、急速に血糖値を引き上げる食品ほど、インスリンの分泌を刺激します。その結果、急速な血糖値の上昇と、その後急速な下降を引き起こします。
人間がこの世界に現れてから数百万年の中で見れば、食物を精製するということを始めたのは、ごく最近のことだといえます。日本でも、米を精製することが一般的になったのは、江戸中期以降といわれます。そして、人間の体は、急速に糖分の吸収が起こる食品に適応しきれていないといわれます。

「反応性低血糖」とは何か?

 糖尿病は、血糖値が高くなる病気であることはよく知られています。しかし、その前段状態が、低血糖だと述べると、頭が混乱しそうになるかもしれません。順を追って説明しましょう。
 急速な血糖値の上昇が起こると、膵臓は、あわてて大量のインスリンを放出します。その結果、急速な血糖値の降下を引き起こしますが、血糖値がちょうどよいレベルまで下がったときには、血液中に大量のインスリンが残っていることになります。それで、今度は、時間が経つにつれて、血糖値が下がりすぎるという現象が起こります。これが、 反応性低血糖と呼ばれる状態です。そうすると、脳、神経系がエネルギー不足になりますから、集中力の低下、疲労感、空腹感などが起こり、また血糖値を急速に引き上げる食品が食べたくなります。また、グリコーゲンを分解して血液中に放出し、血糖値を引き上げるホルモンには、グルカゴン、糖質コルチコイド、アドレナリン、成長ホルモンがありますが、急速な血糖値の低下に対しては、アドレナリンの放出が起こる傾向があります。アドレナリンが分泌されると、人間は攻撃的になる傾向があります。これが空腹時のイライラ感の原因になります。
 反応性低血糖がひとたび起こると、また血糖値を急速に引き上げる食品、例えば、甘いものやスナック菓子のようなものが食べたくなる傾向があります。甘いものだけでなく、ビールや日本酒なども、糖質を多く含むので、同様な反応を引き起こします。極めつけは、清涼飲料類で、例えばコーラ飲料350mlには、砂糖が約40gも含まれていると聞くと絶句します。そして、それが、だんだん習慣になる傾向があります。しかも、反応性低血糖を繰り返すと、膵臓の反応はより過敏になり、インスリンを放出しやすくなるので、悪循環します。つまり血糖値のアップ、ダウンは激しさを増してゆくのです。そして、ダウンしたときには、より低い血糖値の状態が現れるようになります。

そして依存性になり、キレやすくなる

  ひとつのポイントは、人間の体の中で、脳神経系は、原則として炭水化物だけを通常のエネルギー源にしています。だから、血糖値のアップ、ダウンに反応しやすいのです。 血糖値が上昇すると、脳は、エネルギーを得やすくなるので、一時的に気分がよくなりますが、その後、急速に血糖値が下がる過程では、ストレスを感じます。不安や落ち込み、ネガティブな思い込み、被害者意識、苛立ちや怒りなどが起こりやすくなるのです。そして、そこについにアドレナリンの放出が起こったとき、しばしば「キレる」と表現される、怒りの爆発を引き起こします。
 しばらく前に、キレる子供が増えているということが盛んに問題にされていました。最近では、キレる大人が増えていることが問題になっています。40代、50代でも、街中や、交通機関の中でつい、かっとなって、暴力を振るうといった事件が多発しています。
 こうした問題の背景には、社会全体にストレスが蔓延していることもありますが、反応性低血糖を起こしている人が増えているということの氷山の一角ではないかと思えるのです。
 子供のころから、過度に精製された食品(ファーストフード、ジャンクフード、スナック菓子などがその典型)や清涼飲料類になじんできた世代が、キレやすくなり、その世代が中高年を迎えるにつれて、糖尿病へと移行してゆく、そんな図式が見えてきます。
 反応性低血糖という状態が、実は糖尿病の前段状態であることから、膨大な予備軍が形成されているわけです。また、最近では、清涼飲料水を飲みすぎて、急性の糖尿病、いわゆるペットボトル症候群(正式には、清涼飲料水ケトーシス)を起こして緊急入院する患者数も激増しています。また、それをきっかけに、U型糖尿病を発症してしまうケースもあります。本来、U型糖尿病は、急激には発症しないとされてきたことから、専門医でさえ、T型糖尿病と誤診してしまうケースも起こっています。

U型糖尿病はこうして発症する

 反応性低血糖と呼ばれる、血糖値の急激な上昇と、降下を繰り返しているとき、インスリンは、過剰分泌が繰り返されています。骨格筋細胞、脂肪細胞の細胞膜表面には、インスリン・レセプターが、細胞1個当たり、数十から数十万個とかなりのばらつきをもって存在していますが、インスリンの過剰分泌が繰り返されると、ダウンレギュレーションといって、細胞はレセプターの数を減少させてしまいます。さらに、過剰な糖分が、細胞に押し込まれるということが繰り返された結果、GLUTと呼ばれる、細胞の中へ、糖分を運ぶものの機能も低下します。
  また、脂肪細胞は、通常では、アディポネクチンといって、インスリンの働きをよくする物質を分泌しているのですが、肥満になると、この分泌が低下してしまいます。つまり、反応性低血糖の状態が繰り返されることで、インスリンが効きにくい体になり、それでインスリンをもっと分泌するようになる、こうしたことが悪循環的に進行して、ある段階で、インスリンの分泌が追いつかなくなったり、膵臓が疲弊してしまったりすることで、血糖値が高いままになるようになります。
  本来、血糖値が高くなると、インスリンの分泌が刺激されて、血糖値は下がり、ちょうどよい範囲に収まるという、ホメオスターシス(恒常性)が機能するのですが、それが破綻するわけです。 そして、血糖値がある水準を越えると、血液中にだぶついた過剰な糖分自体が、糖毒性と呼ばれる毒性を発揮し、インスリンの働きを妨害するようになります。こうなると、更なる悪循環が始まります。そして合併症が現れるまでには、さらに話の続きがあります。
 また、糖尿病に至らなくとも、インスリン抵抗性が進んだ状態は、老化の促進要因になるといいます。アンチエイジングの世界的権威である、クロード・ショーシャ博士も、ニコラス・ペリコーン博士も、細胞に糖分が急激に押し込まれる過程で、細胞膜に炎症が起こることと、だぶついた糖分が、たんぱく質と異常な形で結合する(グリケーション)により、AGE(奇しくも、年をとることを意味する’AGE’と同じスペルです)と呼ばれる有害物質を生み出して、これが細胞の機能を劣化させるといいます。

合併症はこうして起こる

 ここまでの話の中で、GLUT(糖輸送担体)というものが細胞の中にあって、細胞膜表面から、細胞の中に糖分を運び込む働きをしていることを紹介しました。
  少し話は、ややこしくなるのですが、このGLUTには、実は5つのタイプが存在することが知られています。このうち、骨格筋や脂肪細胞に主に存在し、インスリンの作用によって働くのは、GLUT4と呼ばれるタイプで、体全体の糖分の細胞への取り込みの70%程度を占めるといわれています。
 それ以外のタイプは、実はインスリンに依存せずに、それぞれの調整メカニズムを持って、細胞内へのブドウ糖の取り込みを担っています。
 だから、骨格筋細胞や脂肪細胞でインスリン抵抗性が起きて、インスリンが働きにくくなっても、GLUT4以外のタイプを持つ器官には、血糖値が高くなった分だけ、余分に糖分が入り込むことが起こりえます。
 実際に、末梢神経では、消費しきれない量の糖分が細胞内に入り込んだ結果、アルドース還元酵素という酵素の働きで、それをソルビトールというものに変換します。ソルビトールは、正常な体の中では、害になるものではなく、果糖に変換されて、エネルギーとして使われます。しかし、血液にも、細胞内にも、糖分があふれかえった状況では行き場を失い、神経細胞の中にだぶつきます。細胞は、それを薄めて浸透圧(細胞の中の溶液の濃度)を保つために水分を多く含んで膨れ上がり、正常な機能が損なわれてゆきます。
 運動神経や感覚神経の神経細胞でこうしたことが起こると、それが手足の痺れなどとして自覚されるようになります。しかし、自律神経で起こった場合には、直接は何も感じませんが、便秘や男性のED(勃起不全)といった形で現れてきます。

次々に破綻をきたす調整機能

 脳細胞は、主にGLUT1やGLUT5など、インスリンに依存しない輸送担体を持ちます。しかし、さすがに、脳は生命の中枢です。末梢神経で起こるように、神経細胞の中が大量のソルビトールであふれかえり、機能が損なわれるようなことを防ぐ特別な働きがあるのでしょう。糖尿病になると糖分が脳細胞内に取り込まれるのを抑制するような調整が行われます。先に、脳神経系は、原則として糖分のみをエネルギー源として用いると述べましたが、実は、緊急時には他の方法があります。それは、脂肪から作られるケトン体というものを補助的にエネルギー源として使うことができるのです。それで、糖尿病患者の血液中には、特に脳に安定したエネルギーを供給するためにケトン体というものが増加します。これがケトーシスと呼ばれる状態です。
 それで、とりあえず脳は守られるわけですが、このことは新たな問題を引き起こします。つまり、脳の細胞の中に糖分が入りにくくなるわけですから、正常に近い血糖値を血糖値が低すぎる状態と認識するようになります。健康な人ならば、低血糖症状を起こしたりはしないようなレベルの血糖値で、低血糖症状を起こし、アドレナリンや糖質コルチコイドを分泌して、グリコーゲンを分解して糖分を血液中に放出させる指令を出すようになってしまいます。しかも、血液中に十分な血糖がある状態で、不足していると認識してしまうわけですから、過剰に空腹感を感じ、食べたいという欲求が起こってしまいます。これが異常な食欲の原因で、ますます、過剰なカロリーを取り込んで、血糖値を引き上げ、肥満を招き、その結果、インスリン抵抗性をますます強化してしまいます。つまり脳を守るために行われた対応が、血糖値が高い状態を慢性化させる結果になるわけです。これが、さらなる悪循環です。
 そうしてゆくうちに、ソルビトールは、血液中にもだぶついて、末梢血管を詰まらせて血行障害を招き、過剰な糖分が活性酸素やAGEという有害物質を大量発生させ、高血圧、高脂血症、高血圧、そして動脈硬化、細胞機能の劣化などの事態が連鎖的に起きてゆくのです。
 糖尿病で、起こる確率のもっとも高い問題のひとつに、男性のED(勃起不全・勃起障害)があげられますが、糖尿病患者の内、40歳代で約4割、50歳代で約5割、60歳代で約6割がEDになるといいます。これは、自律神経障害に加え、末梢血流の障害、動脈硬化などが複合した結果起こるものと考えられます。

メンタルな側面にもネガティブな影響が・・・

 すでに、糖尿病患者は、本来低血糖症状が現れないレベルの血糖値で低血糖の症状が現れると述べました。そして、急激な低血糖の症状の中に、キレやすくなるという症状が含まれることも述べました。脳への糖分の供給が少なくなると、脳はストレスを感じます。すでにストレスを感じている状態なので、そこにあたらなストレスが加わると、それを大きなストレスとして感じます。そこで、アドレナリンの放出が起こり、怒りの爆発が起こりやすくなるのです。
 もちろん、人の性格は様々です。糖尿病患者でも、温和で、情緒が安定している人も少なくないでしょう。しかし、傾向的には、反応性低血糖や糖尿病を患うと、情緒が不安定で、気が変わりやすく、不安や苛立ち,怒りを感じやすくなり、怒りの爆発を起こしやすくなるという一般的傾向は見られます。
 さらに、近年では、糖尿病とうつ病には、相関関係があることが分かっています。うつ病が、糖尿病の合併症の一つとも考えられるようになっているのですが、さらに最近、フィンランドの研究グループの報告によると、糖尿病の前段状態の、インスリン抵抗性が生じた段階から、その程度と、うつ病の発生率には、相関性が見られたといいます。
 実際に聞いた話の中で、糖尿病患者である人が、些細なことに腹を立てて、配偶者を口汚く罵るといったことが頻繁に起こっているという話を多く聞きました。(そして、糖尿病が治るとともに、温和で協力的な性格になったケースも聞いています。)
 先にも述べましたように、糖尿病を患うと、男性の場合平均して約半分の確率でED(勃起不全)にもなり、性行為ができなくなります。それに加えて、こうしたメンタルな問題も抱えるとなると、夫婦関係そのものが崩壊に危機に瀕することもあるのではないでしょうか? こうしたメンタルな問題も含めて、それを人格そのものの問題ではなく、「症状」として捉え、家族ぐるみで、治療に取り組むといったことができればいいのですが・・・
 では、続いて、糖尿病は、果たして治せるのか?治せるとしたらどのように治せるのか? ということに話題を移したいと思います。また、このことに関して、現代医学の立場からは、悲観的な見解が多く出されています。しかし、私は、最新の臨床栄養学を学びながら、自然療法、栄養療法を現場で応用してきた立場から、現代医学の標準治療の考え方には、盲点があり、そこを補うことで、完全に克服可能な病気であり、合併症もひどく進まない限り、防いだり回復が可能であることを述べてゆきたいと思います。


つづく

T・深刻です!しかし治すことは可能です!
U・糖尿病は、こうして起こり、そして進行する
V・現代医学の盲点と完治への道
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