第2部 こうして破局は起こる
ストレスに対する反応のタイプ
ストレスに対する反応のしかたも人それぞれです。どんな人でも、アドレナリンとコルチゾールの両方を使っているのですが、人によっては、ストレスが加わると、いらいらし、攻撃的になり、小さな「アドレナリン爆発」を繰り返しながらストレスとたたかうでしょう。こういうタイプを「アドレナリン型」ともいえるかもしれません。周囲にストレスを与えますが本人はそれなりに発散させているともいえるでしょうね。血圧の急激な上昇を繰り返すので、血管の内壁を傷つけ、将来的に心臓疾患や脳血管疾患などを引き起こすリスクが高いともいえます。
これに対して、どちらかと言うと黙々と、不平不満もあまり言わずに責任を果たそうとするような人、こういうタイプを「コルチゾール型」ともいえるかもしれません。この記事に興味を持ったあなたもどちらかというとこのタイプではないですか?
ストレスの慢性化がもたらすこと
コルチゾールは、ストレスとたたかうために、とても有用なホルモンですが、あまりにそれに依存することから問題は始まります。慢性的に、交感神経優位、コルチゾールの分泌が多い状態になりがちです。そうなると、次第に、細胞がコルチゾールを受け取るレセプター(受容体)がはたらかなくなるのです。同じ薬を使い続けると、だんだん効かなくなるのと同じようなことです。
でもストレスとはたたかい続けなければなりません。そこで、次第に副腎皮質が肥大化し、コルチゾールの分泌がさらにふえるということになります。コルチゾール多すぎるとコルチゾール・レセプターを弱らせ、そのことがいっそうたくさんのコルチゾールを必要にさせると言う悪循環が起こるのです。こういう状態を、私は「コルチゾール依存」と呼んでいます。
「コルチゾール依存 」が進行すると・・・
コルチゾール依存が進行すると、コルチゾールが効きにくい体になってきます。そうなると、多くの場合、朝起きるのが辛くなることでしょう。特に休日に何も予定がないと、昼くらいまでぐったりするということが起こります。ふつうに朝起きるときに分泌されるていどのコルチゾールではエンジンがかからなくなるのです。だから、昼まで寝ていても、積極的に休息をとっていると言うよりも、起きられないから横になり続けているといった感じで、決して疲れは取れないでしょう。こういうときには、いっそ、何か楽しい予定でも入れて、遊び疲れてから爆睡でもすればすっきりするんですけどね。
大脳辺縁系に異変が・・・
さらにコルチゾール依存が進行すると、脳のはたらきに影響が出てきます。脳の中には、大脳辺縁系といわれる、快・不快の判定、情動、記憶をつかさどる重要な器官があります。過剰なコルチゾール分泌がつづくと、この大脳辺縁系がうまくはたらかなくなるのですよ。というのは、不快を麻痺させるとともに、喜びや感動も、記憶をつかさどる機能も麻痺させてしまうからです。このことが極端に進むと、たとえばナチスの強制収容所から解放された直後の人々は、無表情で感情がなくなり、記憶も定かでなくなっていたそうです。そこまで極端でなくとも、意欲や喜び、感動が乏しくなったり、ポカミスやど忘れなどがふえたりするのです。
自分を追いつめる「コルチゾール型」
そもそも、「コルチゾール型
」の人は、責任感か強く、完全主義で、ひとの期待や評価に敏感な 傾向がありますから、突然寝坊したり、ポカミス、ど忘れによって会社に迷惑をかけようものなら、そのことで自分を責め、いっそう自分を追いつめてしまいます。
こういうときに、上司のありがたい(?)叱咤激励は、いっそう事態をわるくさせてしまいます。なぜなら、「コルチゾール依存」の人は、人に言われるまでもなく責任を感じており、頑張りたいと思っているのに、生理的な理由から出来なくなっているのであり、しかもそのことを苦にしているからです。
ストレスと依存症の関係
ながいあいだ過剰なコルチゾールにさらされつづけた大脳辺縁系は、意欲や喜びのもとになるドーパミンや、こころに安定や平和をもたらしたり、余計な情報をカットする働きのあるセロトニンを正常につくりり出せなくなってしまうのです。
人によっては、その代償として、過剰に食べることやアルコールに依存するということもよくあります。
砂糖を多く含み、血糖値を急激にひき上げる食品は、一時的にセロトニンの原料になるトリプトファンというアミノ酸を脳の中に送り込んでくれます。でも楽になるのは一時的なもの。インシュリンの過剰分泌を招き、時間がたつと今度は急激な血糖値の低下を招きます。急激に血糖値がさがると、いらいらして攻撃的になったり、気分がひどく落ち込んだり、無気力になったりという、反応性低血糖の症状を引き起こします。するとまたなにか甘いものが食べたくなり、悪循環が起こります。
そして破局はやってくる
アルコールのほうはといえば、アルコールの代謝物が、脳の中でセロトニンに似た働きをするGABAという神経伝達物質のレセプターにはまって、そのはたらきを代行します。そして繰り返したくさんのお酒を飲むと、このGABAのレセプターがはたらきにくくなるのです。やがてアルコールなしでは深くリラックスも出来ないことになり、こちらも悪循環します。こうしてコルチゾール中毒から派生して、砂糖依存、アルコール依存という問題もおうおうにして起こります。
また、抑うつ状態が続くと、自分の体に気遣うこともしなくなる傾向があるので、食事が乱れ、脳が正常に働くために必要なビタミンやミネラルが欠乏し事態をさらにわるくします。
さまざまな悪循環の末、悩んだ「コルチゾール中毒」の人には、ますます、かかえる問題が多くなり、自分を追いつめてゆきます。そして、あるとき、意欲も消失したり、他者の視線に耐えられなくなって、「そもそもなんでこんな事しているのだろう? そもそも何のために生きているんだろう?」などと頭の中がわけが分からなくなり、突然辞表を出す、あるいは会社に来なくなる、といったことも起こります。もっとひどい場合には、自殺を図る場合もあるのです。
長い目で見るとまだ問題が・・・
「コルチゾール依存」の人が、たとえ、うつにならずに耐え抜いたとしても、問題はそれでは終わらないのです。コルチゾールの過剰分泌が続くということは、免疫系が抑制され続けるということですから、がんなど、さまざまな疾患のリスクをふやします。また、こうした状態は、老化の促進要因になります。
アンチエイジング医学の世界的権威、ニコラス・ペリコーン博士は、脳が放出する様々な神経ペプチドと呼ばれるものの中で、持続的なストレスにより、コルチゾールの高いレベルが続くと、「サブスタンスP」というものが放出され、細胞膜の炎症を起こし、老化を促進すると述べています。
また、脳内神経伝達物質の不足を代償するために習慣化した、甘いものやアルコールへの依存が、糖尿病のリスクを増大させます。よく甘党、辛党などと分類しますが、実際には、日本酒やビールなどの醸造酒は、かなり糖分を含んでおり、甘いものに劣らずに、急激に血糖値を引き上げるのです。
たとえこうしたものを多くとっているつもりがなくとも油断は出来ません。なぜならば、白いご飯、白いパン、ポテトなどじたいが、血糖値を急激に引き上げる性質を持っているからです。伝統食では、豆類や食物繊維の多い野菜、海藻類など血糖値の上昇をおさえるような食品と食べ合わせてバランスをとっていたのです。ですから、普通に外食で食べているようなメニューの多く、特にファーストフードは、急激に血糖値を引き上げるものになっています。清涼飲料にいたっては、350ml缶に30〜40グラムもの砂糖が含まれているのです。
アレルギーにもストレスが関係
また、慢性的に交感神経優位、コルチゾール過剰であることは、消化液の分泌や、消化管の蠕動運動を抑制し、食事内容の悪さとあいまって、腸内環境を悪化させます。腸内の悪玉菌が、うつの原因になるような神経毒を作り出すことも知られていますし、腸内に増殖したカンジダ菌が、腸粘膜にびらんを起こし、未消化のたんぱく質が血液に侵入する(リーキー・ガット・シンドローム)を引き起こす場合もあります。これ自体がうつの原因にもなりますし、様々なアレルギー疾患の素因にもなるのです。
昔は、アレルギーといえば、子供のころにあった症状が大人になるにつれてなくなってゆくパターンが多かったものが、近頃では働き盛りの大人が、アレルギーを発症させるケースも増えています。
こうしたわけで、うつ、あるいはうつの前段状態にあるということは、ほかの様々な疾患、生活習慣病のリスクとも隣り合わせになっていることが多いのです。
※うつ、うつ病の全ての人が、コルチゾール過剰なのではありません。ここで述べているのは、消耗性抑うつといわれている、ある類型のうつに関する説明です。他にも、有害ミネラルの蓄積、葉酸、そのほかのビタミンBグループなどの栄養不足、潜在的なアレルギー、エストロゲンの急激な減少、低血糖などが原因の場合などもあります。
第3部 癒しへの道のり
⇒うつ症状の自然なホリスティック・プログラム